ashita text

野蛮に現在のテキストを積み重ね

記憶に残る場面、覚えないパスワード

 ワールドカップサッカーで「記憶に残る試合だった!」というけれども、試合開始から終了までの一部始終をすべて覚えている人はほぼいないのではないだろうか。とはいえ、記憶に残る、歴史的な試合のいったいどのくらいの場面が記憶に残っているものなのだろうか? 

 もちろん、得点シーンなど強い印象の部分は覚えていて当然だ。でもその得点に至るまで、この判断があったからこそ得点につながったというような印象場面に至るまでのストーリーラインは注意深く見ていないと記憶には残らない。(もちろん録画映像で意識的に何回も見れば記憶に残るけれども、あくまでもライブ感覚で接したときのものとして。)

 歴史的瞬間の前後にあるどうでもいいシーンについて、脳は(というよりも自分自身)いつまでも覚えていてくれるものなのだろうか。とりあえず強い印象から逆算してその透明なシーンを補完しているのではないだろうか。大まかなフレーム(記憶のストーリー。要約的な記憶)はそれで間違っていない。でも、コーナーキックを蹴る直前の駆け引き、ドリブルしてパスコースを探しているほんのちょっとしたタイミングなども試合の要素のひとつだ。

 そんな忘れ去られる場面を集めたら別の物語が生まれそうだ。

 物語でなくても、忘れたシーンにキャプションやタイトルを付けていくだけでも印象は変わるし、逆に関連付けて覚えてしまう。

 

 話は変わって「記憶」ということで気になるのがパスワードのこと。

 もはやパスワードは管理アプリまかせで覚えていない。パスワードの生成方法を適当な単語(英単語と日本語のミックス)を並べるだけに切替えてから、毎回新しいパスワードをつくっている。意味のない並びなのでいちいち覚えてはいない。覚えることを最初から放棄している。それでも自分以外の外部(アプリ)が覚えていてくれるのだから支障はない。もし忘れたとしても再度設定し直せばいいだけだ。

 パスワードという文字列の意味放棄。ダダ/シュールレアリズム的な羅列。これまでのパスワードを並べたら、無意味な意味が行間から立ちあがってくるのかも。

 

 凡庸な場面。無秩序なパスワード。記憶の崖から忘却の谷を覗くと、なにかを思い出すかもしれないし、新たな物語へと影響を受けるかもしれない。いや、まったく変わらないのかもしれない。記憶は気まぐれ。