ashita text

野蛮に現在のテキストを積み重ね

緊張と緩和の奈落 −CANCER『THE MECHANISM OF RESEMBLING』展−

文字笑いの重なり

 「もう笑うしかない」というようなシチュエーションがあったとして、そのときの笑いはどこに向けられているのか。自分でもなく、雰囲気でもなく、笑いがどこにも行かないという諦めで笑っているように思える。緊張の緩和じゃない弛緩しきった(筋肉の弛緩も当然含まれる)野放図な、どんな形であれともかく笑い(表現)でこの場を収めたいという、なんというか“w”や“(笑)”を文末に付ける感じの「文字笑い」。文字なので笑いにエモーショナルさはなくノイズ。ノイズとして“(笑)”が散布される、野蛮な笑い。

 絵や写真、映像、身体、データといった表現の場で「文字笑い」が現われるときもある。それはそれで、あって構わない。でも「文字笑い」としての笑いの量、指向性などさまざまな要素(エントロピー)に物足りなさがあると、それは弱々しくなり笑いもなにもないただそこにあるだけになってしまう。

 重層的な文字笑いがある作品を私は見たい。1個見つけて安心するのではなく、重層的に貪欲に重ね書きしてほしい。1個しかないなら、こちらが文字笑いを重ねていくだけだ。野蛮に。“w”や“(笑)”をいやと言うほど同じところに書いて、弛緩しきっていても重ねて重ねて、重ねすぎて他がなにも見えなくなってくるという柔らかい緊張感。緩和から緊張へ、また緩和。お互い高め高めて緊張と緩和の奈落へ。

 絵や彫刻、映像、インスタレーション、ダンス、ネット、テキスト……。重層的文字笑いに多く出会いたい! 見続けたい!というのが今年後半の目標にしよう。とにかく深読みして重層化してやるんだ。そしてぜひ笑い返してあげたい。ときには声を出し、転げ回りながら。軽やかに周囲を巻きこめるように。

 

 7月美術:CANCER『THE MECHANISM OF RESEMBLING』*1 

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 歴史に対して自分の生きてきた範囲で考えるのではなく、もっと遠くまでの景色を入れて考えるのが誠実なのではないかと思っている。そのうえでの「いま」。「いま」からどこにも逃げられないという、文字笑い的な「自生」した作品たちが並んでいた。アート・オーガニゼーションは重層的でもあり、また重ならない何かがそれぞれ際立つといういう形態だと思うが、重層さが時間を経て育つのか(それとも重ならずに広がるだけなのか)その過程に対して、私は大きな興味をもっている。

[概要]
会期 2018年 6月8日〜7月1日
会場 EUKARYOTE
 

 

*1:展覧会は6月から開催してたけれど、私が最終日の7月1日に観たということで7月として記録しました。